裁判員裁判はまだこれから整理されていく制度だと思うが、一つだけ、大きな変化として何となく感じていることがある。それは、以前ならば強盗致傷罪として起訴されていたような事件が、窃盗罪と傷害罪(の2つの併合罪)として分断されて起訴される傾向があるようなのである。
強盗致傷罪は、前は刑の最低限が懲役7年だった。情状酌量があるとさらに最低限の半分まで減軽できるが、それでも3年半である。他方、執行猶予をつけるためには、主刑が3年以下でなければならない。つまり、判決で強盗致傷罪と認定されてしまった瞬間に、初犯だろうが示談ができていようが嘆願書があろうが、執行猶予の余地はなく、自動的に実刑になる仕組みだったのである(心神耗弱や従犯減軽に該当すれば執行猶予は可能だが、それは特殊なケース)。それではあんまりだというので、刑法が改正されて、最低限が懲役6年に変更されたくらいである。
他方、強盗致傷の「強盗」や「傷害」は、判例の積み重ねで、とても広く解釈されるようになった。バイクで後ろから近づいて不意を突いて鞄をひったくる行為も、裁判所に言わせれば「強盗」であるし、全治3日間の擦過傷や打撲でも、裁判所に言わせれば「致傷」だったのである。したがって、強盗致傷で逮捕された被疑者をどうやって窃盗・傷害での起訴に持ち込むかということは、弁護人にとっては非常にシビアな課題だったのである。
裁判員制度施行後、強盗致傷罪は裁判員裁判の対象となったが、そうなると、もともと争われることの多かった「強盗」や「致傷」の定義が、今度は裁判員を交えて判断されるようになった。すでに批判の多い、日本語の語感からも乖離した、一般人にはぴんとこない解釈である。つまり、ここが争われる事例が全国で増えれば、従前の解釈が大きく覆される可能性があるのである。検察当局もその辺は予想して、危なそうなのは大事をとって窃盗・傷害に落として起訴しているのではないかと、勝手に推測している。「裁判員の加入によって、従前のラフな解釈が大きく見直される!」なんてことになったら、検察庁も裁判所も格好悪いもんね。
で、大事なことは、物事の変化というのは、こうやって目に見えない部分からまず表れるということです。「強盗致傷罪の起訴が減って窃盗・傷害に流れるようになった!」なんて、かりにそういう事態が存在したとしても、マスコミではまず報道されないですよね。つまり、分かりやすく目の前に見えていることからだけ判断してはダメであって、視野は常に大局的に、かつ、様々な角度に目をつける視点を備えた上で持たなければならない、ということです。
(2010/03/03)





