今日の一本

「スラムドッグ$ミリオネア」(2008、英・米)

 ※若干ネタバレあります。ご注意を。

 

 米アカデミー賞の受賞作品の発表がありました。昨年この作品が8冠を制してから、もう1年が経つんですね。上映当時は映画館まで見に行きましたが、先日、偶然再び目にする機会がありました。

 

 物語は、インドでのクイズ・ミリオネアの最後の一問から始まります。ムンバイのスラム出身の無学な青年が、あと一問でミリオネアというところで、彼は、「これは不正があったに決まってる」と逮捕されてしまいます。その取調で彼の半生が語られていき、クイズの第一問からの進行、取調の会話、主人公の回想の3本の軸がクロスしながら物語は進んでいきます。

 

 公開当時は、スラムの描写とかクイズで勝ち進むサクセスの成否とかが話題になりましたが、私が考えるこの作品のコアはそこではありません。骨子はピュアなラブストーリーです。日本映画にもアメリカ映画にも2~30年前には当たり前にあった、素朴で単純なラブロマンスです。実は、スラムもクイズ番組もその装飾にすぎません。主人公は常に一直線にラティカのことを考え続けています。その視点は、幼い頃に全速力でスラムをかけめぐった視点そのものであり、映画は終始この軸ですべてを突き抜けて進行します。

 

 終盤では、作品の大きな謎が解き明かされます。それは、「彼ははたしてミリオネアになれるのか?」でもなければ、「彼はなぜ最後の一問まで勝ち進めたのか?」でもない。「そもそも、彼はなぜこの番組に出ようと思ったのか?」ということなのです。この隠れた謎の呈示が、作品の基本的構造をも劇的に変化させています。何問勝ち進んで金がどれくらい入るかというようなことは、彼にとっては二の次だった。ただし、出演した目的の達成のためには、一問でも多く勝ち進む必要があった。そういうことなのです。

 

 描写上の技巧の数々を駆使しながら技巧に振り回されていない、優れた作品だと思います。

 

(2010/03/08)