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理事長所信
Policy

心を観じて、心から尽くす

はじめに

2013 年度、全国大会奈良大会に出演者として参加していた私は、大会の規模や地域全体を巻き込んだ歓迎ムードなど、青年年会議所がもつ行動力や実行力に圧倒されました。その 2 年後、私は入会しました。入会式では、入念なリハーサルや、割れんばかりの拍手の中での入場など、主役として歓待され、奈良青年会議所に入会したことを誇りに思ったことを覚えています。これまでも、私たちはメンバーや参加者への感謝や目配り、気配り、心配りを意識して運動を進めてきました。私が入会式で感じた「おもてなしの心」も、新入会員である私たちの立場になって考えていただいたことで、この心はこれまで奈良青年会議所に受け継がれてきたものであると考えます。

一方で、グローバル化やデジタルトランスフォーメーション、多様性などにより、人と人のコミュニケーションやこれまで大切にされてきたことが変わりつつあります。特に、コロナ禍を通じて新たな非対面による通信手段が拡がったことで、非言語情報が伝わりにくくなり、相手の心を読み取ることが困難となってきました。その分、これまで日本人が重んじてきた一期一会の概念を含む、実際に会うことの価値が以前より強く意識されるようになったと考えます。

私たちは 2024 年度、創立 65 周年や各周年、近畿地区大会奈良大会などを通じて多くの方々をお迎えして交流します。おもてなしを考えたり謝意を表したりする中で大切なことは心から心に伝えることです。おもてなしとは見返りを求めず、誰かのことを思ってすることです。相手の立場になり、本心を察することが必要です。感謝もまた、相手を思って伝えなければ伝わりません。そこで、2024 年度、改めて振る舞いや装い、設えに至る 1 つひとつの源流と本質を考え、心から相手を想う運動をしてまいりましょう。

“心”を観じて、“心”から尽くすのです。

メンバーの価値を高める

【自分で考え、行動できる人財の育成】
私たちはなぜ青年会議所運動を続けるのでしょうか。私が続けている理由は、目指すべき目標に向かって取り組むことが必ず自分の糧になると信じているからです。現代社会では多様性が尊重され、マニュアル通りに「右に倣え」の考えでは取り残されてしまいます。地域のリーダーを育成する団体である私たちは、自己考察と行動力を備えた人財を育てる必要があります。人は正解を見つけた時点で成長が停止します。例えば、おもてなしを考える中でも、その正解やゴールは存在しません。また、私たちには多様な業種、役職、色々な考え方をもったメンバーがいるため多様な角度からの議論ができます。答えがないからこそ、徹底的に議論しましょう。これが青年会議所運動の魅力です。
一方で、残念ながら卒業を迎えることができずに退会するメンバーが出ている現状もあります。新しい仲間の迎え入れに力を注ぐ一方で、もしかしたら現役のメンバーの成長にはあまり注力できていなかったのかもしれません。青年会議所は、青年が社会により良い変化をもたらすためにリーダーシップの開発と成長の機会を提供する団体です。改めて個々のメンバーに向き合い、成長の機会を提供しましょう。

【新たな仲間と共に】
私は奈良青年会議所に入会し、大好きな奈良のまちの成長に向けて共通の志をもって活動できる仲間と出会えたことが一番の財産だと考えます。そして、ここで得られる学びをより多くの人に共有し、共に成長したいと考えます。同じ志をもつ新しいメンバーには、心からの歓迎を表し、青年会議所運動の意義と魅力を伝え、指導力をもつ人財に育てていきましょう。一方で、出会いには別れがつきものです。2024 年度は私を含め 9 人が卒業を迎えます。新たな時代へと進むために、卒業生が築いてきた奈良青年会議所の歴史と伝統を受け継ぎつつ、次世代の奈良青年会議所がより活発な運動を展開できる体制を整えましょう。
また、新たな仲間集めはもちろん、先輩方やジェシナクラブ会員など、私たちの活動を応援してくださる方々にも、私たちがまちのために活動し、成長している姿を見ていただきましょう。私たち自身が青年会議所の理念を理解し、そして楽しく笑って活動する姿は人々を惹きつけます。私たちの活動を知り、理解し、共感し、「あなたと一緒に活動したい」という仲間を集めましょう。

【縁の下の力もち】
どの組織にも、見えないところで努力をしてくれる人が存在します。私たちは、縁の下の力もちの存在のおかげで安心して活動できているということを忘れてはなりません。また、リーダーとは、先頭に立つだけがリーダーではありません。一人ひとりには役割があり、皆がリーダーとしての役割を果たしているのです。
私は青年会議所がメンバーの「居場所」の 1 つであってほしいと願います。私たちは、例会と委員会で少なくとも月に 2 回以上はメンバーと顔を合わせます。社業や日常で疲れていたとしても、活動に参加することでホッとできる居心地が良い雰囲気をつくることが、参加意欲を高めることにつながるでしょう。あわせて、メンバーが成長と発展の機会を享受できるような環境づくりも必要です。「親しき中にも礼儀あり」という言葉のように、親しい関係であっても、互いに気にかける意識を忘れてはなりません。信頼関係で結ばれている私たちは、誰一人として欠けてはならず、全員が大切な仲間です。仲間を理解し、思う心を忘れてはならないのです。

奈良青年会議所の価値を高める

【地域から求められる団体へ】
まちづくりを行う上で、「地域から求められる団体」が私たちの目指すべき姿だと考えます。そのためには、今以上にまちを変革する先駆者としての立ち位置が求められます。これまで私たちは地域団体が主催する事業への協力や、行政や地域、学校からの依頼などを通じて信頼関係を築いてきました。私たちは、利害関係がないからこその高い実現力や、単年度制だからこそできる挑戦、多くの出会い、社会課題との接点など、多くの強みを有しています。その中でも、私たちのメンバーは地元経営者から商店街や観光関係者、社寺の神職や僧侶、議員や公務員まで多様なバックグラウンドをもつメンバーで構成されており、これもまた大きな強みです。各メンバーが成長し、その成長が集まることで私たちはより強い組織となり、様々なまちの変革に取り組んでいきましょう。
一方、私たちの言動や行動が青年経済人としてふさわしいものか、改めて考えてみましょう。メンバーの行動は団体全体の印象につながります。そこに役職は関係ありません。地域やメンバーから「 見られている」という意識をもつことは、リーダーとしての資質を高める一つとなります。誇り高き奈良青年会議所の看板をみんなで背負っていきましょう。
また、急速に変化する社会だからこそ、社会や地域の変化に敏感であることが求められています。そのためにも、地域団体との協力や出向などを通じて、社会や外部とつながりましょう。個人のスキルアップはもちろん、物事を相対化して見る力を身に付けることは、私たちの団体を客観視できることになり、団体の成長にもつながるのです。

【全ての人に感謝と、未来の運動を描いて】
創立の周年とは、過去に感謝し、未来への方向性を示す重要な場だと私は考えます。長い歴史の中で創立 65 周年を迎えられるのは、約 400 人を超える先輩方やメンバーの皆さんのおかげです。65 年という期間の長さを祝うことはもちろん、これまで引き継がれてきた活動の重みや思いを、次世代に継承し、大切にしていくことが重要だと考えます。あわせて、これまで私たちを支えてくださった方々に敬意と感謝の気持ちを伝えましょう。
また、皆さんをお迎えするにあたり、形式的な設えや多額な費用をかけるだけでは、良いおもてなしができるかと言えば、必ずしもそうではありません。心のこもった設えを行い、精一杯おもてなしの心で尽くすことで、より深い絆が築かれるでしょう。そして、創立 60 周年に発表した今後 10 年間の運動指針「NARA STAND UP ~個性を尊重した『まち』と『ひと』~」が 5 年目の中間点を迎えます。社会情勢や新たなニーズ、これまでの達成状況に鑑み、運動指針の見直しを行い、次の 5 年間がより地域課題解決の団体となるよう方向性を明確にし、共有していきましょう。

【離れていても思いやる関係づくり】
「ある国で太鼓をたたけば、隣の国の人が太鼓に合わせて踊り出す」という言葉があります。理想的な人間関係を説明した言葉で、例え距離が遠くても、相手のことを思いやる関係づくりを私は目指しています。私たちは県内外の青年会議所だけではなく、青年団体や地域団体とも交流を深めています。特に、2024 年度には JCI 慶州、JCI 郡山と姉妹青年会議所締結から 50 周年を迎えます。これらの締結は、奈良市が慶州市及び郡山市と姉妹都市提携を行ったことを機に、行政だけでなく団体同士でも交流を行うことを目的に結んだものです。国際情勢や国内情勢が厳しい中でも、JCI の理念である「友情」のもと、半世紀にわたり変わらぬ関係性が続いていることに感謝しましょう。そして、次の 50 年に向けて、今一度互いの理解を深め、強固な絆を築いていきましょう。

【関係性構築に向けた情報発信】
「JC って何をやっているの?」「 それ、JC がやってたんや!」と言われたことがあるのは私だけではないでしょう。良い活動を行っても、それを周知しなければ住民や地域には届きません。私たちの価値を高めるためには、活動を効果的に伝える必要があります。2024 年度は、近畿地区大会や各種周年事業など、情報発信の機会が多くあります。これらを通じて、私たちの活動や歴史、考え方、方針を幅広く伝え、共感を集めましょう。
また、情報発信は相手が求める情報を提供しなければ効果がありません。私たちは数年前からデジタルマーケティングをベースに、閲覧者が望む情報を把握し、提供してきました。良好な関係性を構築する「PR」の考えをもとに、一方的な自己満足の広報ではなく、世間が求める情報を提供し続けることが大切です。奈良青年会議所のブランディングと共に戦略的な PR を行い、その結果を分析し、改善を繰り返すトライアルエンドエラーのサイクルを進めていきます。

地域の価値を高める

【社会をより良く変えるための最善の方法を模索】
地域に根差す私たちの運動は、社会の幅広い課題を抽出し、解決の糸口を見つけ、メンバーや関わるまちの人々の意識を変革し、時代に合わせた明るい豊かな社会を創造することです。一方で、まちの抱える課題は多様化、複雑化しており、財政制約などに限界がある行政だけで課題解決することは困難を増しており、協働の必要性、重要性が増しています。地域課題には既に表面化されている課題と、この先表面化してくる可能性がある課題があり、私たちは地域をけん引し、各時代で課題解決の運動を行ってきた団体であるからこそ、表面化する前の課題の芽を摘み取らなければなりません。潜在的な地域課題を見つけるためにも、私たちは主観的な目線でなく、住民目線や客観的なデータをはじめ、各自治体の総合計画や総合戦略などをもとに考えていきましょう。また、2025 年に開催される大阪・関西万博などの社会動向によるまちの動きも予測する必要もあります。これまでも私たちはひとづくりやまちづくりを進める中で、行政や地域団体とも連携して運動を広げてきましたが、より一層地域にアンテナを張り、社会をより良く変えるために最善の方法を模索し続けましょう。

【奈良の地らしい魅力の発信】
2024 年度、私たちは近畿地区大会奈良大会を主管します。近畿地区内からお越しになる多くの方々が、どういった背景でお越しになり、そしてどういった思いをもって来てもらいたいか考えましょう。その上で、お越しになる方の奈良に対する期待値を超え、奈良にしかできない大会を構築していきましょう。また、奈良には 1300 年の歴史をはじめ、世界に誇る神社仏閣、伝統技術、文化、食などの数多くの魅力があります。大会期間中はもちろん、大会後にも「 また来たい」と思ってもらえるような魅力を提供することで、奈良がもつ地域課題である滞在時間の延長や消費の促進などの課題解決にもつなげることができます。この奈良の価値を高める絶好の機会に、改めて私たちも奈良の魅力をより深く理解するとともに、来訪者の視点に立ち、国際文化観光都市としてさらなる飛躍ができるよう、私たちだからこそできる切る口から奈良の魅力を発信していきましょう。
また、私たちにとって本大会を開催することがゴールではありません。本大会を開催した後もメンバーや地域が一層成長できるような機会にしなくてはなりません。メンバーが役割をもって自分ごととして取り組むことで成長につながることはもちろん、LOM の垣根を飛び越え、多様な背景を背負った近畿地区協議会の方や、行政や地域の方々と本気で議論し
合い、みんなが開催して良かったと心から思える大会にしていきましょう。

【地域の未来姿と、将来の夢を語れる子供たちの育成】
私が幼い頃、教科書には自動運転や空飛ぶ車など未来の世界が描かれ、奈良で開催されたシルクロード博でのスペースシャトルの搭乗体験や、リニアモーターカーの展示など、将来のまちの姿にワクワクしていました。これらを見ながら将来の夢を考え、私は地元奈良のまちづくりに携わっていきたいと思い奈良市に就職しました。
このまちで育つ子供たちは、まちの未来を担う存在です。自分が住むまちがもつ可能性を知り、まちの未来に夢や希望をもってもらうことが、愛郷心を育む一歩だと考えます。また、私たちも地域で活動する青年経済人として、まちの未来を考え、まちをつくっていかなければなりません。子供たちが地域を愛しながら夢や希望をもつことができる場をつくり、大人になっても郷土のために行動できる子供たちを育んでいきましょう。  

結びに

私は青年会議所運動を通して社会全体を笑顔にしたいと考えます。
あなたが笑顔にしたい人を想像してください。メンバーや地域住民だけでなく、家族や友人、職場の方々など、たくさん顔が浮かんでくるのではないでしょうか。それは私も同じです。また、私たちがこうして青年会議所の活動ができるのは、家族や職場をはじめとする、多くの方々の理解があるからということを忘れてはなりません。青年会議所運動だけでなく、日常生活で関わる全ての方々に心から感謝しましょう。

孟子の言葉に「心を尽くすことこそが社会の基本、あるいは人間の基本中の基本である」とあります。物事に尽くし、楽しむことは、私たちにとって理想のことなのです。

心を込めて行うことは、必ず相手の心に届きます。
心と心が通じ合うことで、人に笑顔をつくることができます。
すべては“心”からはじまり、“心”に終わります。

私たちが心から尽くすことで、心と心が通じ合い、その関係は周囲に伝播し、まちを変革する大きな力となるでしょう。それが地域社会全体を笑顔にすることにつながり、豊かな社会の実現につながると私は信じています。

一般社団法人奈良青年会議所
2024 年度理事長 胎中 謙吾